脳活性化リハビリテーションの5原則

1.快刺激 → 笑顔と意欲 

2.褒め合う → やる気

3.双方向コミュニケーション → 安心感

4.役割 → 生きがいと尊厳

5.失敗を防ぐ支援 → 自信

認知症という困難を抱えながらも、楽しく前向きに生活できるよう支援するための考え方


①快:

   人は自分の好きなこと、楽しいこと、うれしいことには意欲的に取り組めますし、継続することができます。認知症による無気力 (アパシー)や認知機能障害による失敗体験の積み重ねで意欲低下をきたすことが多く、できる能力が残っていてもできないとあきらめている場合も少なくありません。まずは本人が主体的にやってみたいと思う事をリハに取入れ本人の意欲を引き出すことが有効です。そして介護者も一緒になって笑顔で取り組めるようなものだと更に効果的です。また快には楽しい・うれしいだけでなく心地よさも含まれます。マッサージ等の身体的な快刺激や認知症の人が安心して、ここにいたいと感じる雰囲気作りも重要です。


②褒め合う:

   誰しもほめられるとうれしいものです (ここではほめるだけでなく「ありがとう」といった感謝も含みます)。ほめられて嬉しいとき、脳の中にはドーパミンが放出されます。ドーパミンは依存性があるため、もっとほめられたいと意欲が高まり、学習能力を向上させます。認知症の人は認知機能障害による失敗体験により自信を失っていることが多いので、ほめられたり、感謝されることは認知症の人の心を元気にします。ほめたスタッフも嬉しく笑顔になり、共に笑顔という相乗効果をもたらします。


③双方向コミュニケーション:

   認知症になると言葉が出にくくなりますし、相手の言葉の理解にも時間がかかるようになり、通常のコミュニケーションについていけず、孤独感やあきらめを感じていることも少なくありません。相手のペースに合わせた会話が安心感を生みます。また専門職や家族と認知症の人のコミュニケーションだけでなく、認知症の人同士のコミュニケーションも大切です。互いを認識しあえるような小グループで仲間と楽しく交流しながらリハを行うことで、認知症のよる不自由を共感したり、馴染みの関係ができることが安心に繋がります


④役割:

   仕事や役割が生き甲斐を生み、自分が周囲の役にたっていると感じることで自尊心が高まります。認知症の人に「今の暮らしはいかがですか?」と質問すると多くの方が「本当によく面倒をみてもらって、申し訳ないよ」と感謝を述べます。全てをやってあげるケアはケアを提供される側に「申し訳ない」と感じさせるのです。ケアされる側の認知症の人は「申し訳ない」「私は何の役にもたたない」と肩身の狭い思いをされているかもしれません。認知症になると何もできなくなると考えられ、軽度の段階から役割を取り上げられることも少なくありません。認知症の人が日々の生活の中で実施できる役割を持ってもらい、周囲の人と互いに助け合う関係を保つことはいきいきと生活するために有効です。


⑤失敗を防ぐ支援:

   認知機能障害による失敗体験の積み重ねにより自信を失っている認知症の人は少なくありません。その自信のなさがさらに意欲の低下や拒否につながります。そのためなるべく失敗しないよう「さりげない手助け」で成功体験を積み重ねることが意欲や自信の回復につながります。またリハ実施前に対象者ができるのか十分検討することも重要です。逆に失敗しても気まずい思いをしない、失敗を笑い飛ばし、失敗と感じさせない場の雰囲気があれば、認知症の人も積極的に発言や行動するようになります。


引用文献

*山上徹也, 山口晴保: 認知症の人への脳活性化リハビリテーション. 認知症ケア最前線36: 22-26,2012.

*山上 徹也:脳活性化リハビリテーションの実践. 認知症ケア最前線 54:18-24, 2015.

*山口晴保, 佐土根朗, 松沼記代, 山上徹也: 認知症の正しい理解と包括的医療・ケアのポイント

   ~快一徹!脳活性化リハビリテーションで進行を防ごう~第3版. 協同医書出版, 2016.